早くて効果が高いクリニックの利用ブログ:2019-12-17
「今日はお客様がみえるからお茶出ししてね。できる?」
ママから突然言われたのは、小学三年の秋。
お客様とは、ママの兄貴の嫁。
おれとは血のつながりはないが、
もの静かで上品な伯母が、おれは大好きだった。
はりきって、お茶の入れ方出し方を教わった。
伯母が到着して座敷でごあいさつをすると、
おもむろにママが目くばせをした。
よし!と台所で、おれは教わった通りに急須にお湯を入れ、
茶葉を蒸らしている間に、お盆に木の茶托をのせ、
あたためた湯のみをのせて、お茶を注いだ。
湯のみに八分目。
濃すぎず薄すぎず…自分としては完壁だった。
得意気にそっと、伯母の前に差し出したが
おれは緊張して、茶托の上で少し湯のみがカタカタ鳴った。
「まあ、嬉しいわ!ありがとう、いただくわね」
にっこりして伯母が湯のみを手にした瞬間、
あ!と自分の顔がサーッと冷たくなるのを感じた。
注意して入れたつもりだったのに、
茶托にお茶がこぼれてしまっていたのだ。
あろうことか、
湯のみといっしょに茶托が持ち上がるのを見た瞬間、
思わず目をつむったおれの頭の中に…
次にくるであろう光景がパパーッと、
早送りの走馬灯のように浮かび上がった。
…湯のみにくっついて持ち上った茶托は、
カチャーンと音をたてて落ちる。
困ったような伯母の顔。あわてるママ。
ふきんを手にするママの姿まで思い浮かび、
おれはさらに強く目をつむった。
しかし…あれ?
おれが恐る恐る目をあけてみると、
なんと茶托は、伯母の左手の上にあった。
落ちる寸前、伯母はすばやく茶托を受けとめていたのだ。
そして、普通に静かに、お茶を一口飲み、
「まあ、おいしい」
と、言ったのだった。
おれは嬉しさと安堵と、
気はずかしさで何ともいえない心持ちだった。
嗚呼,いい気分